育成を科学の視点から考えるということで、スポーツの運動力学を研究されている、
筑波大学人間総合科学研究科 教授の浅井武教授が出演されていました。
人間の動作やスポーツの動き、テクニックあるいはスポーツの用具、それらに関連したコーチングなどを科学的に研究されている先生とのことでした。
何歳で何をおぼえればよいのか?育成のゴールデンエイジは?日本人とヨーロッパ人のボールの蹴り方の違いは?という内容でした。
育成に最適な時期=ゴールデンエイジがある。
子どもたちは大人の縮小コピーではなく、発育発達の途中の段階なので、それぞれいろんな身体の機能が段階的に発達していく。そういう時に、発育発達に応じたそのトレーニング、練習をすることによって、一番最大限の効果を得られる。
運動技能の獲得に適した時期・年代をゴールデンエイジと呼んでいる。その時期に特に鍛えたい内容は以下の通りでした。
まずは神経系
俊敏性など運動能力の基本となる神経系の発達時期を示したグラフ。
7歳がピークになっているが、いわゆる運動神経を養うには5歳~8歳が一番適した時期。
小学校にあがったぐらいで、巧みな運動を覚えるのがよい。自転車に乗ったりすることを覚えるのもこのぐらいの時期
サッカーの場合は、ボールコントロール、ボールタッチ、ボール感覚、この時期を逃すと、後の方でも覚えることはできるが、繊細な感覚、無意識で動く感覚などはなかなか身に付きにくい。
次に、呼吸・循環器系
持久力を付けるには11歳~13歳ぐらいの練習が鍵になる。技術練習、戦術練習はどんどんやってよいが、この時期になれば、長く練習することに対応できる。ここで持久力を高めることによって、生涯、心臓や肺の機能が高い状態を維持することが出来る。
この時期に身体がぐっと大きくなって細胞が大きくなったり、数が多くなったりする。そこに
心臓や肺が、酸素とか栄養素を送ることが始まる。その時に適切なトレーニングをすることが個々の機能を高めるために効果的。
最後に、筋力系
パワーを付けるには16歳からが最適。
筋力をつけると身長が伸びないと言われているが、それは科学的には証明されていない。
あまり小さい頃からやっても効果は薄い。やりすぎると小さい子どもの関節や筋肉、靭帯は弱いので、ストレスがたまってケガにつながる可能性がある。
これらを踏まえて、浅井教授は育成で重要な時期としては7歳~12歳まで。
サッカーではボールを扱うことが、ものすごく大事で、そこが自由にならないと次の段階、次の段階に行ってもハンディになってしまう。やはり、ボールを自由に扱って、ボールを運んで、決める。これがサッカーの基本
キック×科学
インステップ時の最適なインパクトの位置を示したものが以下の図です。
同じ足の甲で蹴ってもどこが反発が高いかを示したもので、足の甲の真ん中よりも上の方が反発がよい。つまり、同じ速度でインパクトしても飛びが違う、反発が違ってくる。
足の甲の根元の部分が骨がギュッと凝縮していてほとんど動かず、固い。この部分でボールの芯を捉えてあげると飛びが全然違うとのこと。
ただし、自分のスイートスポットがあるのでそこで蹴るのが良いが、理屈から言うと固いところで蹴った方がよいですし、スイングスピードが早ければ早いほど、物理的に遠くに飛ぶ。
また、スイングスピードを上げるためにはたくさんの関節を利用するのが良い。
キックのスイングスピードは、沢山の関節を使った全身運動が大切。その中でも特に重要なのが根元。
インステップキックと筋肉の動きの関係を表した図。
強いキックの場合、股関節=根元の部分の筋肉の動きが最も大きな動きを示している。
キック時に一番大きな力を出しているのは股関節。筋肉が大きいので力を出せる。
早く動かせる足首などが力を出しているような気がするが、実際にはその逆で根元が大きな力を出している。
ここでジェラード選手のインサイドキックの話しになり、インサイドキックで40mくらいのパスをだせるという話題になりました。
北沢さんが日本人はインステップがあまり飛ばないという話しをしましたが、それに対する浅井教授の話しが印象的でした。
ポイントは蹴り方。
ヨーロッパの選手の方がインステップキックやインフロントキックに近い蹴り方をする。
日本人は教科書通りに蹴っていて、その蹴り方だと、後ろに足を引いた時点でスピードのでない蹴り方になっている。海外の選手はインステップ気味に動き出して、最後の部分=ボールを蹴る時だけインサイドの形になる。そのため、蹴る瞬間は面を作るだけ。
この話しの最後に浅井教授が、形から入るのは悪くはないが、そればかりにこだわっているとメカニズムが伝わらない。メカニズムが分かって、伝えてあげると、形は後からついてくるとの説明が印象的でした。
最近話題のサッカートレーニング(育成年代)
世界的なサッカーゲーム「ウイニングイレブン」を教材に使うサッカー教室「ウイトレ」が紹介されていました。
ウイトレの詳細情報 → http://www.jp.playstation.com/ps4/message-we/
中西さんと浦和レッズの柏木選手が実施したサッカー教室の様子なども紹介されていました。
また、川崎フロンターレの中村選手もご自身のウイニングイレブン操作時のことを紹介していました。
なお、フットブレインで以前、ゲームはサッカーの技術向上に有効という内容で放送していたこともありました。
詳細 → FOOT×BRAIN(フットブレイン)で、ゲームはサッカーの技術向上にも有効!と紹介していた
発達段階に応じ、その時点で最も発達する身体の機能を知ることは効率よく、また、効果的にトレーニングできることに違いはありませんが、それを逃してしまったからといって効果がないという訳ではないので、その点は勘違いをしない方がよいかと思いました。
スキャモンの発育発達曲線
今回の話しを聞いて、スキャモンの発育発達曲線の話しを思い出しました。
上記のようなグラフです。
詳細な説明は以下のサイトから抜粋しています。(引用元:http://fukushimaunited.com/youthblog/u-15-1/post-44.html)
スキャモンの発育発達曲線は、ヒトの成長を一般系(骨や筋肉の発達)、神経系、リンパ系、生殖系の4つに分類し、これらはヒトが大人(20歳)になるまでの間に一様に成長するわけではない、それぞれ発達する時期が違うということを表したものです。
スキャモンの4類型のうち、運動能力の習得には神経系と一般系の発達が関係してきます。神経系は9歳頃までにほぼ完成に近づくとされていますので、9歳頃から第2次性徴で一時的にホルモンバランスが崩れる時期までの間は、「巧みな動き」「すばしっこさ」といった能力を身につけるのに最も適した時期(ゴールデンエイジ)となります。
この時期に向け、9歳頃までの時期(プレ・ゴールデンエイジ)には様々な運動を経験することで神経を刺激し、神経回路を開いておくことが大切だとも言われています。
一方、一般系(骨や筋肉の発達)は第2次性徴の頃(成長期)に発達していきます。いわゆる筋力トレーニングや持久力トレーニングは、この一般系の発達を待って行われる必要があります。従って、小学生年代での筋力トレーニングや持久力トレーニングは、全くナンセンスということになります。
このように、その年代に合った、身体の成長に合わせたトレーニングをすることによって効果的にトレーニングを実施することができるので、親としても知っておきたい知識(特に子どもがスポーツをしているのであれば)かと思います。
⇒ FOOT×BRAIN(フットブレイン)の「親子で見てほしいSP」に池上正さんが出演
⇒ サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法(池上正著)を読んで!